足摺岬までの三日分9人の供養をする

10日(16日目) 水 曇り後雨 23℃ 32,6km(447,2km) 雨のそえみみずの道
福屋旅館―そえみみず遍路道―七子峠―三十七番岩本寺―佐賀町佐賀温泉 8370円
 朝目覚めて窓のカーテンを開けると外は小雨が降っていた。予報では夕方からとのことだったが。思えば暫く振りの雨のような気がしたので、日記帳をめくると先月31日以来の雨と判った。朝食後、MY氏と先月29日恩山寺で会って以来の再会だったが、私が高知市内見物で一日歩かなかったので追いついた次第。彼は高知で買った靴の調子も良く、足は大分良くなったようだが髭は大分伸びていた。高知屋の昼飯代借金600円を返す。
7時半、二人で国道を横切って、そえみみずの遍路道に差し掛かると、老婆が見えて、「お接待です」とウーロン茶と駄菓子が入った袋に、小銭が入った巾着を渡してくれ、
「山は雨が降っているので今から合羽を着た方が良い」
 と親切な声に送られて遍路道を登る。急な登りの連続で息も絶え絶えながら、彼の後について登ると、間もなくお婆ちゃんの言ったとおり雨が降り出してきたので、村の古老の言葉に間違いなかった。急いで白衣をリュックの中に仕舞い、その間半そでシャツが少し濡れたが、その上に合羽に着替えて、再び急な坂道を登り始めた途端猛烈な雨が降り出してきた。彼も100名山中51名山を登った猛者だけあって着替えるのも素早かったし、登りのスタミナは確かなものがあった。シャツも体温で少しずつ乾いてきた。このそえみみずの道は「へんろみち保存協力会」が時折奉仕団を募って歩き易いように整備している道で、この人たちの苦労を思いながら登る。間もなく標高409米の峠に着く頃には雨も小止みになってきたが止む気配は無かった。
 やがて国道56号線の七子峠に着く。前回峠のトイレでカメラを忘れて、取りに行ったことを思い出しながら緩やかな坂道を下る。土讃線に沿って国道があり岩本寺への道の途中、簡易郵便局で葉書を20枚買う。間もなく「ゆういんぐしまんと」観光センターに着いたので、久しぶりにアイスクリームを食べると口の中に何とも言えない甘さが解け込んで行った。
 窪川町に入ると岩本寺に向かう道の両側に、西南の役で熊本城篭城で名を馳せた、谷干城の幟が風にはためいていたが、彼の生地か。町中にある岩本寺に着いたのは12時20分だった。
 昨日、今日命日の故MM(叔母さん)故HS(元上司妻)故TT(元取引先社長)故IS(元同僚妻)故YT(級友)故MK(友人妻)故MS(元取引先課長)と明日命日の故ME(叔父さん)故SI(義妹の義母)の合わせて三日分の今まで最多の供養をして納経の後、素人の格子天井画で
岩本寺の素人の格子天井画

有名な本堂の絵を写真に撮っていると、彼も盛んに説明しながらビデオカメラを動かしていた。
 腹も空いたので昼飯は前回食べた店で小上りに上がって、二人ともカツ丼を注文する。徳島で買った靴は防水が不完全なので、雨に当たると水が入り靴下が濡れるので、その靴下を脱いで裸足になって足を乾燥させる。この先佐賀温泉までは10キロ程なので時間調整を兼ねてゆっくり寛ぐことにしたが、その間客は誰も来なかった。
 2時、雨は上がったようだが用心の為合羽を着込んで食堂を出る。次の金剛福寺までは三日掛りの長丁場だ。一本道の国道を歩くと、バス停「峰の上」の遍路標識を見つけ左折して暫く歩くと窪川環境美化センターの前を通ったが、この焼却場は使っていないようだった。脇の細い道を下った際、一本目の国道を横切らないで、そのまま国道に沿って歩いて、大きく迂回したことに気が付いたのは大分歩いてからだった。人家が見えるところには棚田が散見され、山あいの狭い畑を耕す苦労を否応なしに感じられるが、今は収穫も終え人の気配も無かった。佐賀温泉まで3,5キロの大きな看板に元気付けられる。
 両側には既に刈り終えた田畑が広がっている道を下り、小一時間ほどでコンクリート造りの佐賀温泉の建物が見えて来た。
4時半、玄関先で荷物を降ろして新聞を貰い、濡れた靴にその新聞を押し込んでスリッパに履き替える。前のマネジャーは辞めたとかで、中年のおばさんが取り仕切っていた。朝食は8時からと、宿泊料金7870円を前払いして部屋に案内された。早速雨に濡れた合羽を室内に干し、ズボンやシャツ類を洗濯機に入れようとしたが、自動で無いので要領が判らず、従業員に聞いて初めて洗濯機が回り出した。それからゆっくりと初めての温泉の湯船に身を任せる。前のマネジャーの話によると、この泉質は、温泉に関しては専門家の札幌国際大学松田教授が太鼓判を押した源泉100%で、湯冷めしないことでも有名とか。湯に漬かりながら髭を剃るためタオルで唇の下まで湯に漬けながら入る。
定番のカツオのタタキだが民宿と違い料理の種類も多く満足

風呂から上がって、何時もの鰹のタタキのほか、豊富な夕食の膳を上からカメラに撮る。温泉で温まった身体には、ビールが吸い込まれるような何とも言えない幸せを感じる。彼は禁酒、禁煙を誓って遍路の旅に出たが、今夜は遂にタバコの禁を破って旨そうに煙を吐いていた。ビールも呑みたかったろうに。
部屋に戻り今日供養した家族9人の内、7人の家族宛に供養した旨を書くと、流石眠気が襲ってきたので、日記は明日に持ち越すことにして、窓を打つ雨の音を耳にしながら蒲団にもぐりこんだのは10時を過ぎていた。明日も天気予報によると雨模様とか。