今まで左から受けた日差しは瀬戸内に近付くにつれ徐々に右から受ける

15日(21日目) 月 雨後曇り 18℃ 30,2km(607,2km) 伊予(愛媛)入り
BH桂月―県境―御荘町(みしょうちょう)―四十番観自在寺内海村かめや旅館 7000円
 窓を開けると雨が降っているので合羽を着込んで、6時55分、ホテルを出る。雨のせいか町の中を歩いたが人を見かけたのは数人ほどだった。コンビニへの道を聞いたのが失敗で、後で地図を見ると可なり遠回りしてしまったが、コンビニで握り飯とお茶を買い国道56号線を進む。
当初、松尾大師経由で行く遍路道を通る予定だったが、昨日の雨で可なり道が荒れていると思い、国道を通ることにする。トンネルを抜けると左手に川を見ながら緩やかな登りが続く。間もなく雨が上がったので、建設会社の倉庫を借りて合羽をリュックにしまい、握り飯を食べて空腹を満たす。普段コンビニとは無縁な男だけに、握り飯の包装を外すのに今日も苦労したが、上手い具合に出来ているものと感心する。半袖シャツに白衣を着て再び川に沿って坦々とした国道の歩道を登る。
8時55分、県境に差し掛かる。橋の手前にある住宅の前に腰掛があって、中を見るとお婆ちゃんが一人繕い物をしていたので、
「4年前もこの椅子に座って休憩したので懐かしい」
「ゆっくりして居て結構ですよ」
 お茶を飲みながらゆったりした時間を過ごす。最近は繕い物をするのを見ることも少なくなって来たので、お婆ちゃんと、50年前に亡くなったお婆が何時も繕い物をしている姿と重ね合わせ、また、今年1月亡くなったお袋が薬缶の注げ口にちじれた毛糸を通し両手で真っ直ぐ伸びた毛糸を束ねている姿など、半世紀前の普通の生活を思い起こして暫し感慨に耽る。便利になれた身にはお婆ちゃんの繕う姿が懐かしく映る。「お婆ちゃん何時までも達者で」と言葉を掛けて腰掛を立つと、「貴方も気を付けてな」と言葉を添えてくれた。
橋を渡ると伊予の愛媛に入るが土佐の高知ともこれでお別れだ

県境の標識をカメラに収める。橋を渡ると四国で三つ目の県、伊予(愛媛県)に入る。付近は高速道路の工事中だったがそのまま国道を進む。一本松町に入り、温泉あけぼの荘に立ち寄り、残りの握り飯を食べた後、寒くなって来たので白衣の上から合羽を着込んであけぼの荘を出る。途中この田舎に似つかわしくない立派な、羽田建設の本社ビルを見て、先ほどの高速道路や台風で崩れた崖の修復等で良く見た看板に、羽田建設の名前があったことを思い出す。何となく町と一体になった土建屋との印象を持った。本社の裏には多くの建設機械が並んでいた。
町役場近くで松尾大師との遍路道の交差点を右折して舗装した道を通る。暫く進むと、短縮するための新しい道路を作っている業者も、羽田建設で大きな建設機械がうなりを上げていた。満倉地区から昔の遍路道を通り、御荘町へ向けて緩やかな下り道が続く。こんな山中の道の両側にも、「マルフク」の金融業者の看板が立っているが誰が借りるのか。
城辺町に入り堤防に沿って進み、橋を渡ると12時45分、観自在寺のある御荘町に着く。県道から国道に出て、前回食べた大福餅の美味さを思い出し、「はただ」で大福餅を4個買い、その一つを店の中で、店員に当時の事を触れながら食べる。甘さが口一杯に広がったが、出されたお茶は出柄だったのには少々ガッカリした。店を出ると直ぐ食堂があったので入る。そろそろ鼻に付いて来たが、何時もの炒飯を注文する。我々ひもじい時代を過ごした世代には、一品サービスされると直ぐその気になるのには考え物だが、今日はお汁と漬物が付いていた。
一時間ほど時間調整して店を出ると、真ん前にボーダーフォンの店が有ったので、E-メールの出し方を教わり、序に残高を調べてもらうと1800円しか残ってないので新たに、5千円のカードを挿入してもらう。
観自在寺は歩いて直ぐのところにあり、両側の宿も閑散とした感じだった。2時、山門をくぐるが、この寺は町中の小さな寺で参拝者も少なかった。
昨年7月15日早朝、好きな山菜採りに行った際、信号無視のトラックに衝突されて敢無く一命を落とした、級友YK君の面影を思い浮かべながら焼香、読経したが、週に一度や二度は電話でやり取りしていた仲だけに、「おい、K」の声も聞くことが出来ない無念の思いが頭をよぎる。一緒に風呂に入るなどして、可愛がっていた孫娘の顔を思い出しながら、さぞかし心残りなことだったろう。
国道を進むとバス停「平山」が見えた。前回このバス停の椅子に座って「はただ」の大福餅を食べたが、今はログハウスの立派なバス停に変わっていたので先を急ぐ。八百坂のバス停も同じログハウスだが、外からは中が見えずらいので早速椅子に腰を掛け餅をほお張る。
間もなく夕日に変りつつある陽を浴びた宇和海
国道の坂道を登り切った辺りから見る宇和海に浮かぶ養殖筏は、宇和海の穏やかな海と相俟って一幅の絵を見るようだった。この付近の室手海岸は先ほど触れた穏やかな海と、景色に恵まれているので、レジャー施設が数多く見ることが出来る。坂を下ると内海村に入る。
4時40分、国道から右に入って直ぐの所にある、かめや旅館に着いた。玄関に入り靴を脱ぐ前に、カメラのフラッシュの洗礼を受ける。お客さん一人一人に記念写真を写してくれるそうだ。二階に案内されたが旅館だけあって、民宿とは全く違う造りで、荷物を整理した後、女将さんがお茶を淹れてくれた。浴衣に着替えてお菓子を頂き暫し寛ぐ。このひと時は民宿では味わえない。階下に降りて風呂場に入ったが、風呂も立派な造りで疲れた身体を湯船一杯伸ばして足を揉む。
今夜も独り占め。旅館だけあって今までで最高の料理、特に煮魚の味付けは文句の言いようが無かったので、女将さんに銚子一本追加する。ビールを呑んだ際、酒が好きだった故YKに盃に酒を注ぎ冥福を祈る。終わって二階の部屋に戻り、故YKの奥さんに供養した旨を葉書に書き、昨日の日記の残りと、今日一日の出来事を記す。明日は柏遍路道を通り津島町から宇和島に行く予定だ。